スウェーデンの『カロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)』は、2022年10月3日、2022年の『ノーベル賞:ノーベル生理学・医学賞』を、『ゲノム解析』に基づく人類の進化の研究で成果を上げたドイツの『マックス・プランク進化人類学研究所』の『スバンテ・ペーボ博士(67歳)』に授与すると発表しました。
『ペーボ博士』は『沖縄科学技術大学院大学(OIST)』の客員教授も務めます。
OIST:Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University』沖縄県国頭郡恩納村字谷茶に本部を置く5年一貫制の博士課程を有する大学院大学である。 沖縄科学技術大学院大学学園法に基づく学校法人沖縄科学技術大学院大学学園により運営され、予算のほぼ全額を政府からの補助金に拠っている。
所在地:〒904-0495 沖縄県国頭郡恩納村谷茶1919−1
受賞者氏名:スバンテ・ペーボ(Svante Pääbo)
誕生日 | 1955年4月20日(67歳) |
出身 | スウェーデン ストックホルム |
国籍 | スウェーデン |
職業 | 生物学者 |
専門研究分野 | 進化遺伝学 |
所属研究機関 | ①ドイツの『マックス・プランク進化人類学研究所』 |
②『沖縄科学技術大学院大学』の客員教授 | |
出身校 | ウプサラ大学(博士) |
出生に関する特記事項 | 1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「スネ・ベリストローム」と、彼の愛人だったエストニア人の化学者「カリン・ペーボ」との間に婚外子として生まれました。 |
経歴 | ・エジプトのミイラに強い興味を持っていました。 |
・ウプサラ大学の文学部で科学史・エジプト学・ロシア語を学んだ後に、父親のアドバイスに従い同大学の医学部に転部しました。 | |
・1986年にウプサラ大学で学位を取りました。 | |
・1997年からドイツのマックス・プランク進化人類学研究所で遺伝学部門のディレクターを務めました。 | |
・2020年からは沖縄科学技術大学院大学の客員教授も兼任しています。 | |
家族 | アメリカ人の霊長類学者との間に二人の子供がいます。 |
主な受賞歴 | ・ライプニッツ賞 (1992) ・グルーバー賞 (2013) ・生命科学ブレイクスルー賞 (2016) ・慶應医学賞 (2016) ・日本国際賞 (2020) ・ノーベル賞:ノーベル生理学・医学賞(2022) |
ノーベル賞の賞金 | 1000万スウェーデン・クローナ(約1億3000万円)。 |
授賞式 | 賞の創設者アルフレッド・ノーベルの命日の12月10日にストックホルムで開かれます。 |
『ペーボ博士』の『ノーベル賞:ノーベル生理学・医学賞』の受賞理由
・『ゲノム解析』に基づく人類の進化の解明の研究が評価されました。
・絶滅したヒト族の『ゲノム』と人類の進化の解明に関する発見が評価されました。
『ペーボ博士』の研究内容
『ペーボ博士』が参加するOISTの研究チームは人類学に『ゲノム解析』の手法を取り入れ、人類進化の歴史に対する見方を大きく塗りかえたことが評価されました。
『ゲノム』とは?
『ゲノム』とは、『遺伝子(gene)』と『染色体(chromosome)』から合成された言葉で、『DNA』のすべての遺伝情報(全遺伝情報)のことです。
遺伝とは、たとえば鼻の形が似ている、ある病気にかかりやすいなどの、親の生物学的な特徴が子供に伝わることで、それを伝える『DNA』の特定の部分が『遺伝子』です。
ゲノム解析とは?
多くの生物の遺伝情報を解明することです。
現在、遺伝子情報(DNAの塩基配列)は自動的に解読でき、コンピュータで解析できるようになりました。
ヒトゲノムの解明は、特に重要であり、病気の予防や診断・治療に結びつきます。
現在、ほぼすべての情報の解読が終了しました。
しかし、遺伝子の役割と病気との関係の解明はまだこれからです。
『DNA』とは?
『DNA (DeoxyriboNucleic Acidの略。デオキシリボ核酸。
長い鎖状の分子で遺伝情報をコードする)』は
ヒトの細胞では、細胞の核の中の『23対(46本)』ある『染色体』の中に存在し、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の部品でできています。
『DNA』中ではAとT、GとCが結合していて、その結合の対を『塩基対』と言います。
『DNA』は、はしごをひねったような形をしていて、細胞の核の中の染色体の中に折りたたまれて入っています。
『DNA』を簡単に言うと、私たちの体を作る設計図と言えます。
ヒトには32億もの『塩基対』があり、膨大な量の遺伝情報をもっています。
『ペーボ博士』らの発見(その1)
特に、『ペーボ博士』らが参加するOISTの研究チームは2020年、新型コロナウイルスの重症化リスクを高める遺伝子が『旧人』『ネアンデルタール人』に由来することを突き止めました。
『旧人』に属する化石人類。1856年、ドイツのデュッセルドルフ近郊に位置するネアンデルタールの石灰岩洞穴で初めて発見され、以後、アフリカ・ヨーロッパ・西アジアなどの各地で出土しました。脳容量は現代人と変わらず約1500立方センチで、死者の埋葬を行うなど精神的発達が認められました。学名はホモ=ネアンデルターレンシス。
『ペーボ博士』らの研究結果が「ネイチャー」に掲載
研究結果をまとめた論文が国際科学誌「ネイチャー」(『The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals』)の電子版に2020年9月30日付で掲載されました。
日本など東アジアではこの遺伝子を持つ人はほとんどいないといいます。
OISTのヒト進化ゲノミクスユニットの『ペーボ博士』やドイツ、スウェーデンの研究チームが、『ネアンデルタール人』の遺伝子と重症化リスクを高める遺伝子を比較し、突き止めました。
これまでの研究では、新型コロナウイルス感染で入院した重症者と入院しなかった感染者計約3千人の『遺伝子』を調べ、重症化に影響を与える『遺伝子』が特定されていました。
この『遺伝子』を持つ人は新型コロナに感染した際に人工呼吸器を必要とするリスクが最大3倍になるといいます。
『ぺーボ氏』らはこの『遺伝子』が約5万年前の『ネアンデルタール人』のものとほぼ同じであることを解明しました。
この『遺伝子』を持つ人の割合は、世界の地域で開きがあり、現代の南アジアでは約50%、欧州では16%でした。
『旧人』は、現代人(『ヒト』)とは別の人類だが、化石の『ゲノム(全遺伝情報)』分析でわずかに混血していたことなどが判明しています。
『ヒト』(人、英: human)とは?
『ヒト』(人、英: human)とは、広義にはヒト亜族(Hominina)に属する動物の総称です。
狭義には現生の(現在生きている)人類を指し、学名が『ホモ・サピエンス(Homo sapiens)』あるいは『ホモ・サピエンス・サピエンス:ホモサピエンスサピエンス:Homo sapiens sapiens)』を指した動物の標準和名です。
『Homo sapiens』は「知恵のある人」という意味です。。
『ヒト』とは、いわゆる「人間(にんげん)」の生物学上の標準和名です。
生物学上の種としての存在を指す場合には、カタカナを用いて、こう表記することが多いです。
亜族 | ヒト亜族 | Hominina |
属 | ヒト属 | Homo |
種 | ヒト | Homo sapiens |
『ペーボ博士』らの発見(その2)
新型コロナの重症化と関連する『ネアンデルタール人』の『遺伝子』は、『ネアンデルタール人』と現代人の祖先が出会った『約6万年前』に、交配で現代人の祖先に渡ったことも明らかになりました。
『ぺーボ博士』は「『ネアンデルタール人』からの遺伝子的遺産が、現代の『パンデミック』で悲劇的結果をもたらしていることは衝撃的だ」と語りました。
語源は、ギリシア語のpandēmos である。
パンデミック、なかでも生命に関わるような症状を伴う感染症のパンデミックは、人類の皆にとっての脅威であるとされます。
『旧人』の『遺伝子』が重症化リスクとなぜ関連するかは分かっていません。
『ぺーボ博士』は「一刻も早い解明に向けて、我々は取り組んでいる」と強調しました。
出典:スバンテ・ペーボ教授、ヒューゴ・ゼバーグ教授
世界各地の新型コロナ重症化リスクをもたらす遺伝子を持つ人の割合を研究し、日本など東アジアやアフリカでほとんど見られない一方、バングラデシュなど南アジア地域で高い割合を示すことが判明しました。
現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)が、『ネアンデルタール人』と共存・交雑を発見
『ペーボ博士』は2010年5月、3万~4万年前に絶滅した『旧人』『ネアンデルタール人』の骨から、生命の設計図である『DNA』を抽出し、『ゲノム』(全遺伝情報)を解読することに成功しました。
その結果、(非アフリカ系の)現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)の『ゲノム』に『ネアンデルタール人』の『遺伝子』が1~4%受け継がれていることが判明しました。
6万~7万年前にアフリカを出た現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)の祖先の集団が、『ネアンデルタール人』と共存・交雑していたとの見方が広まりました。
現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)は『デニソワ人』とも交雑を発見
また、2010年3月に『ペーボ博士』はまた、ロシアのシベリアで発掘された骨が未知の『旧人』のものであることを解明し、『デニソワ人』と名づけました。
現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)の祖先は『デニソワ人』とも交雑していたとみられます。
『旧人』から受け継いだ遺伝子の中には、新型コロナウイルス感染症の重症化と関係しているものがあることも、突き止めました。
ノーベル賞を受賞した沖縄の大学の教授は誰?分かりやすい受賞理由は?のまとめ
ノーベル賞の受賞者
2022年の『ノーベル賞:ノーベル生理学・医学賞』をドイツの『マックス・プランク進化人類学研究所』の『スバンテ・ペーボ博士(67歳)』に授与すると発表しました。
『ペーボ博士』は『沖縄科学技術大学院大学(OIST)』の客員教授も務めます。
『ペーボ博士』らの発見:受賞理由
『ペーボ博士』らが参加するOISTの研究チームは2020年、新型コロナウイルスの重症化リスクを高める遺伝子が『旧人』『ネアンデルタール人』に由来することを突き止めました。
このことは、6万~7万年前にアフリカを出た現代人(『ヒト』=『ホモ・サピエンス』)の祖先の集団が、『ネアンデルタール人』と共存・交雑していたとの見方が広まりました。
数万年前に地球に存在していた現代人の祖先の遺伝子の詳細について、発見されたなんて、本当に興味深くて素晴らしいことですね♪ これからの若い世代の研究者が『ペーボ博士』らの研究を引き継ぎ、更に多くの真理を明らかにすることを応援したいですね。